社交

ざんねんな人間図鑑

lyric

わたしの言葉はあなたの為のじゃないよ。凡庸な言葉に、あなたの憂いがヒットしただけ。
わたしの言葉はみんなの為のじゃないよ。自分の肌触りで、手に取ったときの光加減で並べているだけ。おいしいから、そこに置いてあるだけ。
わたしの言葉に意味なんかなくて、ただ音が気に入ったとか、思い浮かんできたとか、そんなやつなのだ。ほんとうにそうなんだ、歩いていたらいつまでも頭のなかで何かが喋る。それを聞いているだけ。それを書き並べているだけなの。それが綺麗な感触だから、とっておいているの。
悲しい歌を思い浮かべながら生きていると、ふいに涙が出てきたりするね。なんにも悲しくなくても、全部悲しい気がしてくるのは、音楽のせいだ。こんなに悲しいのは音楽のせい。音楽に乗っけてしまえば、悲しいことを言っても怒られない。わけのわからない言葉を書いても首をかしげられることはない。そういうところへ行きたいのだ。意味のわからないまんまで、言葉を食べて貰えるところ。小説と、詩と、歌詞と、ことばは、ちがうのだ。わたしはそちらに立てないから、ここで手を振っている。
今日、わたしのことを忘れてしまったかわいい子が、はっとしてわたしを思い出して申し訳なさそうな顔をした。いいよ。だってきみはかわいいから。きっと許して貰ってきたんでしょう、そう思う。全然憎たらしくもなくて、きみはほんとにかわいいんだよ。わたしは誰かに死ねって言われたら死のうと思うし、とても醜い子だからきみとは違うね。わたしはきみをよく知らないけれど、それは確かだよ。だから、わたしを忘れていたことも、今ごろきみはもう忘れてしまっているでしょう。