社交

ざんねんな人間図鑑

両手で受ける

呆然としながら生きているので、はぁそうですか、と適当に相槌を打っては不満げな顔をされる。一度でいいから人生の模範解答を見せてほしい。答えを写してそっくり笑って、それで楽に生きられるならどんなにいいか。
それぞれ事情を抱えて生きるなかで、自分にとっての普通を押し付けがましく見せびらかして、醜いことに気付けないまま大人になる。薄っぺらな常識がしぐれてゆく。大したこと言えなくても、声だけでかけりゃ強くなれる。五月蝿く纏わり付く劣等感を振り切って無知のふりをすれば道化になれる。美しくて虚ろな情緒を作り上げた時点であなたはもう馬鹿だ。馬鹿の仲間入りだ。笑けてくる。
お母さんとお父さんがいて、家族みんな仲良しで、勉強は中の上で、友達もそこそこいて、自分の性別に何の疑いも持たずに異性を好きになって、毎日大してなにも成し得ていなくても、夜が怖くならない人が普通なの?学校にはまいにち行かなくちゃいけないの?理由なんてないよ。理由なんてない、ただ嫌なことが嫌で、みんなの普通に当てはまれないのが怖いだけ。みんなと一緒は嫌だなんて減らず口を叩いて、ステージの上では異端になりたくないだけ。嫌なことはないよ。けれど楽しいこともないよ。私は、私として、わたしを嫌っているだけだよ。
いつも家で聞いていた5時のチャイムを帰り道に聞いた。想像の数百倍うるさいことを知って、私はなんて箱入りな、空っぽな人間なんだ、と自嘲した。知らなかっただけ、こんなにこの町で生きていたのに。